騎士団長殺し 第一部 顕れるイデア編 / 第2部 遷ろうメタファー編 村上春樹 新潮社

ハルキストではないのですが、村上春樹さんの作品は、目に止まると読むということを続けています。私の中では、「村上春樹さん=物語の力」。そして、同じような物語世界の繰り返しと批判されることもある。ということ。いつも読み始めて半分ぐらいは夢中になって読むのですが、後半はいつも、自分とは違う世界だなと思い、最後まで何とか読み終えるということを繰り返しています。

「騎士団長殺し」は、特に絵画の勉強をしていたこともあって、前半はとても面白く読み進めました。また、作家が創造する過程が、絵画の制作に反映しているようで、とても興味深く読みました。フィクションなので、村上春樹さん自身の創造の過程はこのような道筋をたどるのかなと、想像してみるのも楽しかったです。

村上作品では、昔でいうところの少し洒落た雰囲気の中で、邪悪なものも取り込まれながら話が進んで行き、その表現力も驚嘆するべきものですが、いわゆる一般的な文学とは違う雰囲気を纏っているなといつも思って読了してしまいます。少し、文学というより、ファンタジー文学のような、、、。

しかしながら、今回の作品は、今までの作品よりも随分とご自身のプライベートな部分も表現に入っていたのではないかと思い、今までの作品との違いを少し感じました。むしろ今後「物語」ということを考えずに作られた作品が読めると面白いのにと希望する次第です。

思えば時代も随分変わり、当時の村上春樹フィーバーのようには作品を読めなくなっているかも。

アンナ・カレーニナ 主演キーラ・ナイトレイ  監督‎ ジョー・ライト

「アンナ・カレーニナ」はトルストイの原作を読むと、結構辛くなるので、映画を見るのを暫くためらっていました。しかしながら飛行機で視聴。アンナに対比して描かれるリヨーブィンは良しとして、アンナの振る舞いが、矢張りあまりにもいたたまれなくなります。子供もいるのに、恋愛の末なくなるアンナが哀れで、またそこが人間らしくアンナが鮮烈な印象を残す理由でもあるのですが。

 前半のキーラ・ナイトレイそして衣装が壮絶に美しく、それを見るだけでも価値があります。そしてそれが最後にむかう壮絶な死や哀れさを一層引き立てています。

ジョイ(JOY) 主演ジェニファー・ローレンス  監督デヴィッド・O・ラッセル

Joy

飛行機の中で閲覧した作品。ジェニファー・ローレンスは不思議な魅力を持つ俳優だといつも思っていて、つい目が離せなくなります。でもはっきりどこが魅力なのか特定するのが難しい。普通ぽく見えるのが成功の理由かも。映画の話は、アメリカンドリームという感じで既視感がないわけではないのですが、ついついその彼女の成功物語と作品内容が重なって見えて印象に残りました。何も持たないないというのは、成功への大きな一歩と思わされる作品でした。

ジキルとハイド Jekyll & Hyde The English Theater Frankfurt

ジキルとハイド The English Theater Frankfurt

 再び、フランクフルトのThe English Theater。
「ジキルとハイド」のミュージカルを見ました。素晴らしかった。舞台の切り替えや、音楽、歌もよかったのですが、なんといっても主演の俳優さんの熱演。ジキルから瞬時にハイドに切り替わる瞬間、表情や振る舞いで一気に別人になる様が圧巻でした。外見が同じはずなのに、これだけ筋肉や体の使い方で違う人に見えてくるとは。俳優ってすごい。

 人間の暗黒面も書くので舞台演出も退廃的でしたが、それだけに魅惑的でもあり、女性陣の歌も魅せました。かなり現代性のあるテーマなのかと思います。その変容は、精神的な問題とも置き換えられるし、場合によっては薬物問題もとらえることもできるかもしれません。欲望とか。だんだん深みにはまっていく感じなど、多かれ少なかれ、見ながらドキッとする人はたくさんいるのではないかと思われます。

 俳優の早変わりの演技を間近に見る醍醐味があり、間近で聞く歌や演奏もよく、特殊効果のない舞台でストレートに見る価値大という作品でした。

「おやすみなさいフランシス」(世界傑作絵本シリーズ) ラッセル・ホーバン著 ガース・ウィリアムズ イラスト 福音館書店

子供の頃に読んで、妙に記憶に残ているので、手に取りました。特に記憶にあるのは、ガウンが「おおおとこ」に見えるページと、天井のひびのシーン、そして、最後に眠りにつくシーン。記憶に残っているから良い絵本だったのかなと思って手に取てみたのですが、要は実は子供心に結構怖かったのだなと思いました。このこわさは、想像力のこわさ。

夜よく眠っていた息子が、一時期眠れない(「なんでかわからないけれど、怖くてねむれないからそばにいて」)という時期があり、それがちょうどこのフランシスに重なり、子供に想像の世界がひろがる時期、夜との触れあいが始まる次期があるのかなと思った次第です。(同様のテーマの本は他にもあるので。)想像していると怖いけれど、実際には、ガウンだったり蛾だったり、子供が子供なりに、夜の世界と触れあっていく過程が印象的な本だったのだなと思いました。フランシスのお父さんとお母さんがゆったりと切り返すのが良いところ。フランシスも最後にはすっかり疲れて寝てしまうところが微笑ましい。

「中年だって生きている」 酒井順子 集英社 

 途中で読了をほぼ諦めかけました。気鋭のエッセイストの中年(女性)の心模様のエッセイ。バブル世代の方達が(主に女性)の社会的あり方を考えてくれるので、その下の世代の女性は生きやすくなるという構図。ちやほやされなくなって驚く、とか老化に驚くとか、中年といわれる世代の心模様など、今までだったら公に口にされなかった話を書いてくれているので、心が軽くなる女性がたくさんいるはずとは思うのですが、そこまでした公にしなくても、という内容もあり。

 しかし心のひだの拾い方は、流石に手練れのエッセイストの方なので、唸るぐらいこまやかではあります。個人的には、昔の古典とかと照らし合わせながら状況を検討しているところが良かった。なんだか中年の悲哀にも普遍性あり。
 
 それにしても、ここ何十年の社会の変化は本当に大きかったのだなと思います。その時代の流れで、得した人がいたり、損した人がいたり、得したと思っていたのにこんなはずではなかったと最後に損をしたり、どの時代のどの国に生まれるかというのは選べないだけに、こういった社会学的な視点が入った書物は面白いのかも。

チリとチリリ どいかや アリス館

 チリとチリリ。ちょっと少女趣味ではありますが、可愛らしい絵本。何より、作者の方が、きっと絵を描くのが本当に好きなんだろうなということが伝わってくる作品でした。最近私自身のテーマである、長く読み継がれるよい絵本という範疇に入るか微妙なところなのですが、作品世界があるという意味では、楽しく読める絵本でした。自分でもうまく表現できないのですが、その長く読み継がれるよい絵本という境い目はどこにあるのだろう、、、探索中なのです。
 なんというか、サンリオのキャラクターと、物語との違い、どちらが偉い、偉くないということではないのですが、やはり、絵本という主に子供を対象にして書かれているお話であっても、人間性の深さやなにか本質を突くものが含まれているからこそ、長い間読み継がれていくのではないかと思うので、魂が絵に宿るのか、物語に宿るのか、わかりませんが、物語の中の登場人物があたかも本当に生きていると感じられるかどうか、それが現実とは違う想像の世界であっても、リアルと物語のはざまで生きていると感じられるものかどうか、というのが違いになってくるのかなと、考えているところなのです。

 なので、この作品は作者の思いも伝わってきてとても好きなのですが、そういう意味で、イラストの中の世界なのか、絵本なのか、ということを微妙に考えてしまう作品でした。

ブルーベリーもりでのプッテのぼうけん(世界傑作絵本シリーズ スウェーデン)エルサ・ベスコフ 福音館書店 

きれいな挿絵の絵本で、(リンクの写真では、その魅力が少し伝わりにくいのですが。)絵に惹かれて何度も手に取っています。とても惹かれる本なのですが、長く語られている本なのだと今になって知りました。

絵本の要素には、物語の魅力や、挿絵の魅力などありますが、この作品は、とにかくこの絵に惹かれます。それが物語の内容にぴったり。小さくなったプッテと、そのまわりにいるこけももたちなどの可愛らしさに、物語の味わいが一層深まります。

一本一本の筆さばき、彩り、それらがその後ろに隠れているどれだけの文化を伝えることでしょうか。子供のころの、まっさらな心に色々なイメージを運びこむ、この絵本を読むという行為がどれほど重要なことか、ついつい考えてしまいます。

ここのところ、何冊が立て続けに違った種類の絵本を読んでいるなかで、よい絵本というのはどんなものだろう、と考えることが多かったのですが、長く語り継がれる作品んでいるなかには、ものすごい引力を感じます。

その魅力は、絵だけ、物語だけ、などと切り離せません。一つだけ思うのは、マーケティング等で調査されたものではなく、その作家さんの物語世界がひろがっていること、そしてそれがその作家さんの生きる背景の文化をすくいとっていて、矛盾するようですが、最終的には普遍性があること。頭で作られたものではない、物語の世界がひろがっていること。そんなことが大切なのかなと思いました。

大衆に受けるということよりも、個人の作品世界を深めるということの方が大切なのではないでしょうか。人間の奥底に広がる、深くて濃い世界を気忙しさに紛れずに見つめていくような生き方をしていきたいなと、個人的には思います。

「連舞」「乱舞」 有吉佐和子 集英社文庫

連作を2日続けて読了いたしました。

有吉佐和子さん、何を読んでも本当に一度読み始めたら止まりません。その筆力は信じられないほどです。今回はしかしながら、連作ではありましたが、前半にあたる「連舞」がより感情移入できました。

詳しく書くと、内容が分かってしまうのであまり書きませんが、「乱舞」は、そもそもの設定において、主人公の気づきがこんな遅いということがあるのかな、と疑問に思い、物語に集中しきれませんでした。

成人してからの話で主人公の燃えるような思いよりも、細かな政治的な動きに焦点があたり、且つ主人公以外の登場人物の書かれ方の分が悪すぎて、主人公が美しく賢いという設定というよりも、他が駄目すぎると読めてしまい、共感しきれず終わりました。

せめて、異父姉妹の妹、ならびに妹の書き方がもう少し違えばよかったの二と思います。幼少からの苦難の時代が、妹がいることで起こったことであっても、その妹を最後に受け入れるような、妹のよさを引き出すようなそういう結びを期待していました。少し器が小さいように感じてしまうのです。しかしながら、この時代の作家が描く女性主人公は、芯が強い人が多いので、また、頂点に立つためにはある程度の性格の悪さとも見えかねない強さは、仕方がないかもしれません。

そのような具合でしたので、主人公がこのような峻厳さを持つまでの過程を描いた「連舞」がより楽しんで読めました。特に、ドラマの起こし方が、面白くて、映像が目に浮かぶようでした。このようなドラマティックな動きが面白いと思うのも、作者の筆力の素晴らしさがあるからこそ、受けいられるものと思います。

色々書きましたが、有吉佐和子さんの筆力、安定感というかなんというか。毎度のことですが本当に驚かされいます。もはや、話の主人公よりも、作者自身がどのような生い立ちがあるのか、のほうに興味が出てきてしまいました。

もう今の時代では、古典といった雰囲気ですが、時代が変わって読んでも面白い、日本舞踊に造詣があれば更に面白い、すごい昭和の小説です。

「いぬのマーサがしゃべったら」スーザン・メドー作・絵 フレーベル館

ここのところ、数ある絵本のなかから子供がまた読んでとせがむ本。

子供の絵本の読み聞かせをして思うのは、世界の名作といわれている絵本や、長い間語り継がれている絵本は、読んでいる大人も楽しめるということ。話は単純な時もあったりするのに、なぜか手に取るとワクワクする本。そのワクワクはいつもどこから来るのかなと思います。

似たような内容の本でも、ワクワクする本としない本があったり。勿論、絵の素晴らしさ等が関係することもありますが、やっぱり何といっても精神が自由に舞う感じ、そうして、登場人物の人間力の強さ。勇気や、人を思いやる気持ち、人間への根本的な信頼、ユーモアなど、そういう本に子供の頃の心がよみがえってワクワクするのかもしれません。

(絵本で時々ある、何かを学ばせようとしたり、お説教くさかったりするのは、やはり読んでいてもつまらない。)

まあ、たまに、何でこの絵本がこんなに好きなのか分からないというものもありますけれど、それはそれで、その時期の子供の心に触れるみたいでとても楽しいです。子供によって、好きになる本も全く違うし、読み聞かせで広がる世界って本当に広い。自分の子供時代を追体験するような気持ちの時も沢山あって、心がざわざわする時も沢山あります。

そんなはらはらどきどき、笑いと子供と一緒に感じながらこちらの本も読みました。この犬が話しができたら色々聞きたい!という気持ち、本当にわかる!とワクワクしながら読み進めた本でした。