「ホーリースモーク」 ジェーン・カンピオン&アンナ・カンピオン 斎藤敦子訳 ”HOLLY SMOKE” Jane Campion & Anna Campion

コロナパンデミック、非常時の恋愛小説 読書シリーズ     

 2020年は静かに始まり、春先にコロナパンデミックという予想もつかない事態に世界中が陥った。私が住んでいるドイツでも休校、国境閉鎖のニュースが流れた瞬間に雰囲気がガラリと変わり、非常事態の様相をなした。

 先のわからぬ不安から、振り返れば普段と違う突発的な行動をとる人も沢山いた。買い溜め、連帯、警戒、静寂の中で平常心保とうと、不安を解消する。そして私自身も。

 家にいる時間が長い間、外部からの情報を必要以上に取らないように電子端末から離れ読書に耽ったのだが、選ぶ本、選ぶ本、気分が閉鎖的になるものや特殊な状況の物が多く、自分でも不思議だった。

 それでも人との繋がりを求めているのか、結果的に特殊な状況下の恋愛小説を手に取ることが多く、なんだか笑うしかなかった。そんな非常時の恋愛小説 読書シリーズの第1弾は、「ホーリー・スモーク」である。

 映画は見たことがない。IMDbでの評価は10点中6.9点、YouTubeでも評価は低い。かく言う私も過去に小説を読み始めた時は最初の数ページで読むのをやめた。非常に特殊な世界観なのだ。それに読み方・見方によっては愛欲の世界みたいで、受け取る人によってかなり引かれる可能性があるのは否めない。

 ジェーン・カンピオンが書く恋愛世界だ。ノーマルの域ではない世界を扱ってくるだろうと予測はできる。以前に読み進められなかった世界観に、このコロナの非常事態に何故か恐々とのめり込んだ。すべてがバーチャルになりそうなコロナ下の世界で、身体的な激しさが必要だったのかもしれない。

 人間が非常事態に陥った時、心から信じるもの何なのか。洗脳とは何なのか、信仰とは何なのか。宗教の本物と偽物とは。そこから人を助け出す事はできるのか。支配し支配されるとは。等、読書中、私自身は普段全く考えない分野の精神世界に突入し、なんだかコロナパンデミックの非常空間の中で(しかも直接的な被害はなかったため、時間だけはある不思議な状態)読みながら疲弊した。

 洗脳とはとても怖い事だ。ドイツに住んでいると大戦時の酷い経験があり、現在でも報道でテロリストの洗脳の話等も出てくるので、身に迫っって恐ろしく感じる。私が習っていた語学学校の年配の先生も、戦時中の体験からか、2度と洗脳されないように、洗脳の仕組みを学術的に学んでいた。

 個人的には、この話は、ジェーン・カンピオンの作品なので、愛で洗脳は解けるのか、欲望と真理、男女の間の支配被支配の戦いの、物語での挑戦だったのだと思う。訳者斎藤氏の解説によるとジェーンの姉アンナ・カンピオンが共同執筆をしているが、演劇を学び、女優として舞台に立ち、その後精神障害を専門とするカウンセリング助手をした後に映画界に戻った経歴があるそうだ。

 少し滑稽で物悲しい、自信満々の脱会カウンセラーのPJが、ルースに完全に屈服して(私的にはすべてを捧げたと解釈した)何かが変わったのだと思う。最後は二人が非常時から日常に戻り、洗脳されたのではなく、真の信仰の追求への道と友情という形で終わる。そこに辿り着く前のカルシスがその瞬間を生きた二人の証で、そこを一緒にくぐり抜ける人がいたことが、ルースを渇望から救ったのだろう。

私の美の世界 森茉莉 新潮文庫

森鴎外の息子、森茉莉さんの、独特の世界観の本。何故か、旅先に持っていくことが多く、イタリアの海岸沿いのホテルに泊まった時に、暴風雨の中眠れぬ夜に読んだ記憶もある。

作者の森茉莉さんは、父親に溺愛されて、特に西洋の最上のものを知り尽くされていたが、生活力には乏しかった。とい話をどこかで読んだりもしたが、その精緻な記述や豪奢な想像の世界に圧倒される。

森鴎外の住んでいたドイツにいるせいか、森鴎外の「舞姫」が二重写しとなり、日本で読んでいた時と別の感慨にふける。「舞姫」も、鴎外が日本に帰国したから美しい話になったのか。

当時は、相当なエリートでないと海外に行くことがなかったと思われるので、海外旅行、いや海外移住も珍しくなくなった今、森親子がいたら、別の物語がうまれるかもしれない。

抱く女 桐野夏生 新潮文庫

私自身が、時代背景をあまり理解したいないことで、作品世界があまりわからなかったのだと思う。同時代に生きた人は青春小説と思うのかな?

ウーマンリブの話も絡めているし、時代背景もあるのだけれども、矢張りこの主人公の生き方があまり好きに思えず、何とか読了しました。著者は露悪的に作品を書く方だからわざとかもしれないけれども、また最近時代が変わって、露悪的悪品もみんな読まなくなってきているのではないかと個人的には思う。