「凍りのくじら」 辻村深月 講談社文庫

 読んでいる間は、ぐんぐん引き込まれて、一気読みしました。作品のトーンは、薄暗い感じでした。現実感なく生きていると思う人は共感できる作品なのではないかと思います。作品や、主人公を好きになるかは別として、作者の方が力量があるのだなというのが、前半の物語自体はすすまない、もやもやとした箇所の描写で実感できました。

 しかも、途中泣きそうになりました。架空の物語で人を泣かせるのは相当技術がないと、どんな表現手段であっても難しいことだと思います。理由がある構成で、もやもやした前半でも読み進めることが止められないようなっており、カルタシスがくることは分かっているのですが、そのペース配分等、緻密に考えられた作品だと思いました。

 これもある理由で、3度読みはなくても、2度読みは必須。ちょっと不思議な雰囲気が私は好きではないのですが、それに関しても最初に説明されているという、全て計算済みというなんだか怖ろしい構成。少しだけマンガチックなのが気になりますが(ドラえもんに関してではなく、人物描写と作品構成が)それなりに、読み応えのある作品でした。そう、確かに物語設定などもあわせて考えると、少し少女漫画的です。