私の美の世界 森茉莉 新潮文庫

森鴎外の息子、森茉莉さんの、独特の世界観の本。何故か、旅先に持っていくことが多く、イタリアの海岸沿いのホテルに泊まった時に、暴風雨の中眠れぬ夜に読んだ記憶もある。

作者の森茉莉さんは、父親に溺愛されて、特に西洋の最上のものを知り尽くされていたが、生活力には乏しかった。とい話をどこかで読んだりもしたが、その精緻な記述や豪奢な想像の世界に圧倒される。

森鴎外の住んでいたドイツにいるせいか、森鴎外の「舞姫」が二重写しとなり、日本で読んでいた時と別の感慨にふける。「舞姫」も、鴎外が日本に帰国したから美しい話になったのか。

当時は、相当なエリートでないと海外に行くことがなかったと思われるので、海外旅行、いや海外移住も珍しくなくなった今、森親子がいたら、別の物語がうまれるかもしれない。

「中年だって生きている」 酒井順子 集英社 

 途中で読了をほぼ諦めかけました。気鋭のエッセイストの中年(女性)の心模様のエッセイ。バブル世代の方達が(主に女性)の社会的あり方を考えてくれるので、その下の世代の女性は生きやすくなるという構図。ちやほやされなくなって驚く、とか老化に驚くとか、中年といわれる世代の心模様など、今までだったら公に口にされなかった話を書いてくれているので、心が軽くなる女性がたくさんいるはずとは思うのですが、そこまでした公にしなくても、という内容もあり。

 しかし心のひだの拾い方は、流石に手練れのエッセイストの方なので、唸るぐらいこまやかではあります。個人的には、昔の古典とかと照らし合わせながら状況を検討しているところが良かった。なんだか中年の悲哀にも普遍性あり。
 
 それにしても、ここ何十年の社会の変化は本当に大きかったのだなと思います。その時代の流れで、得した人がいたり、損した人がいたり、得したと思っていたのにこんなはずではなかったと最後に損をしたり、どの時代のどの国に生まれるかというのは選べないだけに、こういった社会学的な視点が入った書物は面白いのかも。